シンゴジラは祭りである(※ただしこの祭りに参加しても楽しめるとは限らない)


シンゴジラ、売れてるみたいですね。よかったですね。
ぼくは公開前は「極端な鬱展開でさえなければ」「いきなりイメージ映像とかにさえならなければ」
などと非常に失礼なことを思っていましたし、
公開初日に見てからでさえも
「うわ〜〜〜これは面白いけど一般受けはしない!ゴジラは死んだ!!神様〜〜!!」
などと一人憔悴し、
ヤフー映画のレビューに根拠のない5点満点をつけて
「売れてほしい、どうかたくさんの人に見ていただきたい」
などとレビューでも何でもない祈祷行為を働いていました。


それがこの大ヒットですので、正直非常に驚いております(当事者であるかのような発言


なぜあのようなピーキーで前衛的な(後述します)内容にも関わらずこのようにヒットしているのか。
結論から言うと「開き直って作られた映画だから」
ということになるのではないかと思います。
もっと言うと庵野監督の人徳によるもの」ということになります。


ふざけてませんのでどうか終わりまでお読みください。

庵野監督の開き直り

実写映画を作ると非常にアレだという評判の庵野監督がゴジラを作るということで、
公開前は果たしてマトモな出来になるのか?というレベルの心配をされていたシンゴジラですが、
ふたを開けてみればある程度嗜好が合致する観客からすれば普通に楽しめるであろうと思われる
映画になっており、拍子抜けというか安心しました。


では庵野監督がシンゴジラでいきなり実写監督としての技量が上がったかというとそういうわけではなく、
庵野監督の実写における技量を適切なテーマ設定により適切な方向に割り振った
ということなんだと思います。



まあ要するに宮崎駿氏が庵野監督に対して言った
「お前はメカ以外はてんでダメだなー、人物は丸チョンで描いとけ!」
というやつでして、
まったくの推測ではあるんですけど、
庵野監督の
「(実写においては)メカ背景戦闘描写に偏重し人物描写は独特な面白さはあるが固い」
という手持ちの武器から逆算して、
「こういう内容なら強みが生かせる」と思えるテーマ設定をしたのではないかと思わされるんですよね。


しょーじき言って冒頭の手持ちカメラの映像からしてカルト映画感プンプンでしたし、
モブが棒読みなのはともかく閣僚などメインキャストの演技でさえも「固いなー」
と感じるシーンはありました。


しかし、それが半端な固さではなく、
観客置いてけぼりで法律の内容をすごいスピードで検討する官僚とか、
キャラクター個人への感情移入は狙っておりません!と言わんばかりの早口と早いカット割り、早い展開、
「見やすいアングルとか実写の作法とか知らんから!好きなアングルでやらせてもらうで!」という声が聞こえてきそうな
開き直った説明的なアングルの中に混じる実相寺なんとかさんみたいなアングルなど
突き抜けた固さだったのが、
「スーパーヒーローではない一般の人たちがやけにならず、冷静に淡々と仕事をこなして勝つ映画」
という内容にマッチしたため、
万人向けには仕上がりませんでしたが、
庵野監督の強みであるバトル、破壊、メカ描写との一貫性を保ち、
まとまった映画として完成したのではないかと思います。

カルト映画なのに、なんで売れたのか

まあそんなわけで、
シンゴジラは一点突破のテーマ性に懸けた
独特な風味の映画に仕上がってますので、
名作、大作よりは奇作、怪作といった表現のほうがしっくりくる
相当に人を選ぶ映画なのではないかと思うのですが、
ではなぜそんな変わった映画が売れているのか。


それは「お祭りだから」じゃないかと思うんですよね。


今回のシンゴジラで改めて感じたんですけど、
庵野作品というのは「よくできた作品」では決してなく、
「イビツだが一部ものすごく光るものがある作品」なんだよなぁと。
だから好き嫌いが分かれますし、
いいにつけ悪いにつけ、強烈な印象を残す。
何か言いたくなる。話題になる。
どうも庵野とそれを見た奴らが大騒ぎしている。
あの祭りはなんだ?俺も参加させろ!
という吸引力というかサーキュレーターというか、
そういう力があるんだなーと思わされました。(ただし主催者のメンタルが調子のいい時に限る)


たぶんそういうことなので、
シンゴジラのヒットは(まあ映画のヒットって全部そういうものなんだろうけど)
祭りの吸引力で引き寄せられた人々のお金であり、
楽しめた人と、楽しめなかった人のお金が合わさったものであろうと思われます。

おまけ

あとはおまけです。


ゴジラの放射熱線についてですが。

もう何が何でも意地でも特撮効果音を使いたいという
執念を感じる映画*1である
シンゴジラですが、放射熱線については素直にいけば1種類しか効果音が使えないところを
出力可変式にしてパワーが上下するごとに効果音を変えるという
頭のおかしい素晴らしい発想で効果音を複数使うことに・・
もとい、新鮮な熱線描写で観客に驚きを与えることに成功しました。
この効果音、低出力時はゴジラシリーズのものとわかるのですが、
高出力時の高い音はオリジナルなんでしょうかね?
ネット上では、○○の時のものだ、なんて説もありましたが。
検証がめんどくさいので皆さまのご意見お待ちしております。


んで、この放射熱線、これまでのシリーズと違い、火炎放射器を思わせる描かれ方でした。
庵野監督と火炎放射器で思い出すのは旧エヴァ・・じゃなくて「沖縄決戦」です。
沖縄決戦はエヴァイデオンと並んで手軽に臨死体験ができる素晴らしい映画ですので、
「へー庵野監督ってそんなに火炎放射器が好きなんだ、どんなのなのかな」
などと気軽に見てはいけません。


今回のゴジラは災害そのもの、恐怖の権化みたいな扱われ方だったので、
最高にエグい恐怖の放射熱線が必要とされたことは間違いなく、
そんなエグさを求められるシーンで出てきたのが火炎放射器だったので、
やはり庵野監督にとって最高にエグい攻撃方法は火炎放射器なのかなーなどと
思ったわけなのでした。


あとはいつものデンドン(BGM「DECISIVE BATTLE」のバリエーション)についてですね。

ハマる人にとっては非常に盛り上がるBGMである一方、
まーたデンデンドンドンか、手抜きか!
と、賛否両論なこのBGM。
サウンドトラックCDで作曲者の鷺巣氏もそのことに触れ、
「毀誉褒貶を覚悟してでもこの音楽をぶつけてくる、まさに庵野監督の名人将棋」
名人戦棋譜をなぞる中毒性」
というようなことを書かれています。
デンドンマニアの方はよくご存じでしょうが、
今回のデンドンは流用ではなく、ちゃんとシンゴジラ用にアレンジを変えてあるものです。
ぼくのウォークマンにはデンドンフォルダがありますので、
エヴァTV、序、破、Qの各アレンジと今回のを合わせると
もはや小一時間くらいはデンドンしていられるんじゃないかと思います。
うれしいです(報告

*1:沖縄決戦とか見てると、「うわーシンゴジラの効果音がいっぱい使われてるぞー」というトリップ感を味わえます(ヤバイ