凝った台詞には元がある

攻殻機動隊1.5 HUMAN ERROR PROCESSER (KCデラックス)
原作「攻殻」の1.5。
以前から出ていたCDロム付のほうは買い損ねていたので、
今回が初見。
端々に映画・アニメ版の元シーンを発見できますね。
「アズマは『昼に食ったツナサンド』と再開した」*1とか、
カニみたいな腕の違法改造の戦闘サイボーグ*2
バトーが手榴弾を迎撃するトコ*3等、
アニメにすごく局所的に引用されてる印象。
映画・TVの攻殻のシナリオが、原作の切り貼り的な引用をかなり含んでいる
ことを改めて感じました。
でもこれは批判でも何でもありません。
士郎氏の原作が、そのままアニメにするには不向きだとか、
小さなエピソード、それこそ一言の台詞からでもアニメを一話作れてしまう濃さが
あるとかの理由から、こうなるのは当然だろうなと。
「1.5」の資料編によれば、士郎氏自身が原作エピソードを改変して
プロットとして提示しているくらいなので、現場には自由に原作を活用
する雰囲気ができてるんでしょうね。



まあそれはいいとして、個人的にはアニメ版攻殻の人気
アップルシードもか)の一方で、原作漫画の影が薄いことが
不満なんですよね。(影が薄いと思ってるのは自分だけ?


映画やアニメのスタッフロールに「原作 士郎正宗」の文字が出るトコ以外で、
「このアニメができたのは半分くらい士郎氏のおかげですよ」
と視聴者に認識させる機会がなくて、
全てがアニメスタッフの労のような印象を受けるんですけど・・。
いえ、アニメスタッフが非常に素晴らしい仕事をされてることは
間違いのないことですが、全てではないだろうと。


こういうことを考えたのには、今回「1.5」を読んで、
イノセンス」の現場検証シーン*4の内容が一部原作準拠
であることを知って、
イノセンスのオマケDVDのことを思い出したからなんですよね。


そのDVDでは「見所:難解な台詞」として現場検証シーンの
「オロクが・・・」の台詞が紹介されていました(もう処分したので確認
取れませんが、おそらく)。
「オロク」の件は押井版のオリジナルですが、
上にも書いたように「ツナサンド」の台詞は原作のもの。
つまるところ難解台詞の多い押井ワールドに、士郎氏の
海外ドラマ的な、とある人の感想でいえば「アメリカンな会話」(笑)が
食い込んでいるわけで、それをすべて押井ワールドとして
紹介してしまうのはどーかなーと思ったんですよね。
何年も前の商品の内容にこういうこと書くのもなんですけど。


それと、「1.5」で初めて士郎氏のアニメ版攻殻に対する印象を
文章で読んだことも不満の一因。
これまでの士郎氏のアニメに対する姿勢というと、
ブラックマジックのコンテ本とかその他を読む限り、
「アニメと漫画は別物だから干渉しません」という印象だった
んですけど、「1.5」では珍しく不満や要求が読み取れます。
アニメ版で、原作とは違って素子の衣装がTPOを考慮しない
ハデなものになっていること*5とか、
その逆に、不適当な原作要素の挿入(違和感のあるゲストキャラ)などに
対する指摘がそれです。


プロットのやり取りやデザインの提供など、意外と士郎氏がアニメに
関わってることがわかって、氏の創作と部材提供の労が、今の状況だ
といまいち伝わってこない気がしてきたんですよね。
「リスペクトが足りない」ってやつですかね(笑)。


ただリスペクトを表明するにしても、スタッフロール以外には適当な
場がないのも事実です。
「原作:攻殻機動隊」だけじゃなくて、原作のどのエピソードを元に
したかを詳細に示すとかか。
あとはマーケティングに期待するしかないかな・・
士郎氏の漫画を取り上げてプッシュするとか(笑)
まあそれは無理にしても、映像商品の作品解説とか
出版物の中では士郎氏の労を取り上げてほしいよなあ。


と、本人そっちのけで実に大きいお世話を焼いてみました。
チョモランマよりも高く、マリアナ海溝より深いお世話ですね(笑)。



余談:

サイトー先生の活躍シーンが見れるのは「1.5」だけ!


余談2:
士郎氏のアニメスタッフに対する注文はどれも非常に興味深い
んですけど、攻殻SACの第一話について
数少ない「9課が任務を処理できた事案」になってしまった(笑との指摘。
氏が、失敗の許されない厳然たるプロを描く=敗北は少ない
のに対して、アニメの文法では強大な敵があって、主人公は必ず苦労
しなければならないのかもしれません。

*1:=惨殺死体を見て吐いた

*2:カカト落としをするとこも同じ

*3:なめてんのか等、台詞がほぼ同じ

*4:バトーが少女のホログラフを見つけたり、鑑識班がIG走り(笑)でドカドカ入ってくるトコ

*5:士郎氏いわく、一般的な攻殻のイメージは「肌を露出した衣装の無敵ねーちゃんがハデに活躍する話」。自分もそうです(笑 やっぱり映画第一作のイメージが強烈すぎたんだろうなあ