逆襲のシャアの戦闘シーンは具体的にどこがどうかっこいいのか言語化計画(長い)

毎度世間のオタクトレンドと隔絶した
マクー空間を形成している本ブログですが、
また性懲りもなく時期外れのネタです。
機動戦士ガンダム 逆襲のシャアです。
機動戦士ガンダム 逆襲のシャア [Blu-ray]


なぜ今、逆シャアなのか・・?
理由は特にありません。
シャアにも
「これはナンセンスだ!」と言われてしまいそうな時期の外れ方であります。


実は以前、ツイッター上で逆シャアがちょっと盛り上がったことがあったので
自分の中では逆シャアブームがちょっと再燃してるんですよね。心底どうでもいい
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』OPの作画監督クレジットについて - Togetter


で、自分が逆シャアについて昔から気になっていることがあるんですけど、
それは
逆シャアの戦闘シーンはサイコーに素晴らしいのだが、
どこの語りを見てもいまいち言語化されてない」
ってことなんですよね。



「展開がスピーディー」「スピード感がある」「ロボット*1の動きがリアル」
などなどの表現はよく見るんですけど、いまいちはっきりしない。
具体的に、どこがどうだから、こんなにかっこいいのか?


我が教祖であるアニメ様はこう書いておられます。

戦闘シーンの描写については殺陣のつけかた段取りの組み方だけでなく、
敵味方のモビルスーツのギミックを次々に披露しながら、戦闘を進めていくのが見事だ。
モビルスーツが「よくできた便利な機械」である事を分かりやすく表現していると思う。

WEBアニメスタイル | アニメ様365日 第465回 アニメーションとしての『逆襲のシャア』


「殺陣と段取り」
さすがトーシロとは違います。表現が的確であられます。


このアニメ様の言葉にヒントを得て、
今回は逆シャアの戦闘シーンの素晴らしさを言語化すべく、
メリケン様のプレゼン手法をパクって3ポイントに分けて語っていきますよ。

(1)アクションが「殺陣」である

つまるところアニメ様の言われる
「殺陣と段取り」のパクリです。


(1)(2)(3)
例えば、このシーンでは
(1)アムロが中距離からビームを撃つ。
(2)シャアがビームを回避。
(3)その隙に、アムロが懐に入る。


という流れのアクションをしています。
(1)でアムロがビームを撃ったのは、
けん制しつつ距離を詰めるためです。
そのアクションが(2)(3)のシーンに繋がり、アムロ
見事にシャアの懐に入ることになります。
さらに(3)では、すでに次のシーンへのつながりが生まれます。
次の攻撃を繰り出すためのライフル射撃の妨害です。
この後、妨害を受けて一瞬の隙を見せた
シャアのライフルをアムロが破壊します。


このような一連の流れが時代劇を思わせる
逆シャア「殺陣」なわけです。
キャラの意図がにじみ出た細かいアクションが次々とつながり、
ひとまとまりの見せ場となっています。

余談ですが、上記のシーンのあとも「殺陣」は続き、
最終的につばぜり合いとなって、いったん区切りがつきます。
そして、その後はすかさず例のアレ。



「私、シャア・アズナブルが粛清しようというのだ、アムロ!」
「エゴだよそれは!」


富野アニメはなんでいつも戦闘中に議論するの?
という有名なイヤミがありますが、
逆シャアに至ってはその議論の仕方が限界まで洗練され、
もはや芸術美というしかない領域に達しています。
この「議論」が、
素晴らしい「殺陣」の合間にすかさず挿入されては、
富野フレーバーをまき散らしつつ、戦闘しながらも
ちゃっかりストーリーを進めていくという大変重要な役目を果たしており、
戦闘シーンだらけの逆シャアにはなくてはならない装置となってます。



ところで、同じサーベルのアクションでも、F91*2だとちょっと違って、
(1)(2)
(1)でサーベルを抜いたら、(2)で相手が切り捨てられて、
これははっきり2アクションに分かれてます。
逆シャアのような、牽制と本命攻撃を組み合わせた
複雑な殺陣はあまり見られません*3
このほうが視聴者としては一つ一つの出来事をじっくり追えるし
わかりやすいんでしょうけど、
逆シャアみたいな「乱暴なまでのスピード感」がない。(笑)
富野監督もF91では息切れしたのか、制作体制の不安定さのせいなのか・・
まあ、こういう演出のほうがアニメでは一般的だと思います。


もちろん、他のガンダムシリーズでも、ちょっと探してみれば
同じように殺陣マインドを感じさせるシーンは存在します。
というか、
ガンダム、あるいはロボットアニメというくくりに限らず、
バトルもののアニメを作るにあたって
見せ場のバトルで手の込んだ殺陣を組み立てる
というのは至極当たり前のことなのですが、
それにしたって逆シャアは2クール終わりの見せ場で出すような密度感の
殺陣がゴロゴロしてるのでやっぱり異常です。



(2)1シーンあたりでやってることが異常に多い

これはアニメ様の言われるところの
モビルスーツのギミックを次々に披露しながら、戦闘を進めていく」
と関連します。
ロボットをそのギミックを通してかっこよく見せるというのは
ロボットアニメの基本ではありますが、
逆シャアはそのスピードがとにかく速い、速すぎます。*4


これはたぶん、ビームサーベルなど
武装のマウント位置から、モビルスーツの基本的動きに至るまで
「ファンは以前の作品をふまえて見るだろう」という前提のもとにアクションが構築されているからなんだと思いますが、
このようなファン向けと割り切ったかのようなメカ描写の数々が
結果的に
ガンダムファンの目にも新鮮に映るハイスピード戦闘
を実現させているような気がします。


例えば、このカット。


ガンダムオタクから見れば
ビームサーベルを取り出しただけじゃねーか」
というだけの短いカットなのですが、
そのように違和感なく理解できるのはやはり「1stガンダムビームサーベルは背中にあった」
という知識があるからこそです。
かつて背中にあったサーベルが、今回は手首から飛び出すという
典型的なギミックシーンなのですが、
それにしても尺が短いです。
仮に非ガンダムファンの方にもわかりやすくするために尺を伸ばしたとすると
逆シャアのスピード戦闘はありえないわけで、
やはりこの短い秒数に詰め込まれたアクション密度の高さは
多分にシリーズ作品を見てきたファンの理解力に依存している
んだろうなあと。





こちらは、リ・ガズィが追加武装を捨て、分離ギミックを披露するカット。
ここもやはり尺が短いです。
それに加えて、リ・ガズィ武装を捨てざま、すぐに反撃に映っています。


さて、このように時間に比して多くのことをやってるカット(時間あたりで高密度)
のほかに、
同時に多くのことをやってるカット(静止画面で高密度)もあります。
例えばこれ。

ぱっと見で言えば「ロボットが銃を撃っている」だけのカットですが、
に言わせると
モビルスーツが射撃の瞬間に背中のバーニアで衝撃を殺してるんだよ!!」
という要素も見て取れるわけです*5



こちらも何の変哲もないカットですが、
「ザコロボが射撃をしながら突進してきている」という要素のほかに、
「盾で敵の射撃を防いでいる」という要素もあります。


まあ、シーン単位で見ると大したことないような気もしますが、
このような密度感が劇中すべての戦闘シーンにもたらされているというのは
本当にすごいことですし、
上で挙げたサザビーのバーニアを筆頭として
すべてのMSの方向転換、加速、減速、動作のたびに
MSの各部分に律儀なまでのバーニア描写がされており、
こういうバーニア関連の描写の執拗さには狂気すら感じます*6


そういうわけで、誰もが映像の内容を十分に理解できるかどうか?
という基準でいくと
多分にガンオタ(あるいは一定程度の濃いオタク)の理解力に依存している
逆シャアのスピード戦闘ですが、
ガンオタであるという壁を乗り越えてこの映像を見ることができたならば、
これはやはり素晴らしい戦闘シーンとして大変楽しめる事でしょう。


仮に視聴者がかつてのわたくしのような
ガンオタパンピー少年だったとしても、
「なんかよくわかんないけど速くてリアルでかっこいい!」
と問答無用で思わせるパワーがあると思います。

(3)アクションに説得力がある。

ここでいう「説得力」というのは「リアルなSF考証」のことではありません。
細かい点は矛盾があるが、ひとまとまりの作品世界としてはいかにもありそうだと感じさせ、
こまけぇこたぁいいんだよ!!」とかばってあげたい、愛してあげたいと
思わせる力、略して「コマ力(ちから)」です。


なんか富野監督の次回作で出てきそうな用語になってしまいましたが、
逆シャアにはこの「コマ力」が溢れているのです*7
よく言われるように、ガンダム「人型ロボットで戦争なんて非効率的」
というレベルのちょっと考えれば誰でも思いつく矛盾点をいくつも抱えていまず。
必然「コマ力」の発動をつねに求められているわけですが、
逆シャアでの演出・作画面での細かい気配りによる「コマ力」
たんなる言い訳のレベルをはるかに超え、
架空の戦場の空気感(もちろん実際の戦場の空気とは違うでしょうが)
をかもし出すほどの水準をもっていると思うんですよね。


まずはこれ。
逆シャアモビルスーツ戦では
某ゼー○ガンダムみたく「宇宙空間に浮きながら漫然とビームを撃ちあう」
なんてことはありません。
このシーンではリガズィもヤクトドーガも、
きちんと遮蔽物を使っています。


また、遮蔽物から出て身をさらす際には、
無防備にならないようダミーを放出してカバーしてます。



リガズィの射撃に対してわずかに後退して距離を取り、その後前進するサザビー
これも、敵MSに簡単には接近できないという「間合い感」を演出していて、
「いかにもありそう」と思わせてくれるいいシーンです。



後方からの援護射撃をもらいつつ前進するネオジオンモビルスーツ群。
筆者は「MSといえど、援護がなければ前進できない」という描写と受け取りました。



左は、敵に中距離まで詰め寄って目くらましのグレネードを放つケーラのジェガン
真ん中はブライトさんの「斉射、あと3秒!」のカット。
右は長距離移動用の支援ユニットを乗り捨てるギラドーガです。


どれも「宇宙世紀の戦闘のお約束」をさりげなく示してくれていて、
「こう動かなきゃすぐに死ぬんだよ!」というベテラン兵の声が聞こえてきそうな
良カットです。


ジェガンのグレネードは、あくまで目くらましというのがシブくていいですし、
これ以上近づいて接近戦となれば、ちゃんとライフルやサーベルに切り替えているのが
いかにもそれっぽい。
母艦の艦砲射撃のシーンは1stガンダムから連綿と受け継がれてきた
「ブライトさんの命令台詞だけでちゃっかり戦場の空気感を出す」お約束のカットですが、
「長距離ではまず艦砲射撃」という戦場の距離感の醸成に貢献してます。
ゲタを躊躇なく乗り捨てるカットも、
「会敵したらゲタは捨てる」という戦場の不文律を感じさせてシビれます*8

まとめ

はい、こんな感じで殺陣、密度、説得力という
3つのキーワードで逆シャアの戦闘シーンの魅力を言語化しようと
がんばってきたわけですが、皆様に伝わりましたでしょうか?
アニメ様の丸パクリじゃねーかとか言われると
摩擦熱とオーバーロードでアレしてしまうのでやめてください。
既存の逆シャア論壇になかったものが何かしら伝えられれば幸いです。

*1:ガンダムファン以外の方に配慮して、あえてこう書いときます

*2:同時期の、同監督、同じ劇場作品ということで取り上げてみました

*3:シーブック君が射撃戦から一気に間合いを詰めてサーベル・・とかちょっとやってるくらい。

*4:一応、カットの切り替えまでの平均秒数を記録してみたりもしましたが、所詮素人なので他のアニメとの差が分からず、数値的裏付けはアッサリ断念したことを付記。

*5:某フォロワーさんから華麗にパクらせていただきました。ありがとうございました

*6:これもどっかで読んだもののパクリです

*7:ただ、これは1stガンダムからの世界観の積み重ねがあってこそであり、ガンダム信者以外には厳しいとこだと思います。

*8:ゲタを敵にぶつけるカットもあり、そのへんの戦闘術の個人差みたいなのがまた楽しい